瑠哀 ~フランスにて~
 どうして、と聞きかけた瑠哀を遮って、ピエールは、おいで、と瑠哀の肩を押して行く。


「僕のコレクターの一人に話をつけておいた。

マーグリスを紹介してくれる。

君は彼らの友人と言うことになっている。いいね」


「わかったわ――」


 瑠哀は一息ついて、気持ちを引き締める。


「フォンテーヌ様、その方が先程話されたご婦人ですね。

これは、お美しい方だ。

お会いできて光栄です」

「初めまして」



 瑠哀は手を上げる。男はその手を取って、甲に軽くキスをした。

 いい加減、このキスにうんざりしながら、儀礼的な笑みを浮かべる。



「マーグリス会長。あなたにご紹介したい方がいるのですが?」


 マーグリスはこっちを振り向き、今話していた人物に、失礼する、と告げ、杖をつきながら歩いて来た。


 会話を中断しても来る――と言うことは、こっちの男の方が地位的には上らしい。



 二人はお決まりの社交辞令の挨拶をしながら、当たり障りのない天気やこの芸術祭などの話をし出した。さすが、上流階級の人間は表面上まろやかだ。



「―――そして、こちらはフォンテーヌ氏の友人で、ルイ・ミサキ嬢です。

彼女は、偶然にもあなたのご子息の友人だったそうなので、

ここにお連れしたのですよ」

「息子の……?」


 マーグリスはハッとして顔色を変えた。
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