瑠哀 ~フランスにて~
 瑠哀は、微かに睨んでいるようなピエールの目を捕らえる。


「そして、あなたのその瞳。その瞳が言っている。私になど興味はない、と。

―――なぜ、私はここにいるのかしら」

 小さく首をかしげてみせた。心の中で、この程度では彼はなにも言わないだろう、と判ってはいたが。


「ランチを食べにだろう?」

「そうね。では、どうして私を誘ったの?」

「君は警戒心が強いね。

それに、お喋りだ。

僕はあれこれと詮索されるのは、好きじゃないな」


 瑠哀は小さな笑みをこぼした。

 拒絶する時だけは、こんなにも素直に反応するのに、本当に一筋縄ではいかなくておもしろい。



 だが、ここまで来ると、人間不信を通り越して、何かの意地を張っているような気がして、気が逸れる。


 瑠哀はバッグの口をあけ、そこからお金を取り出して自分のプレートの下に置くようにした。


「それでは、私は失礼するしかなさそうね。

お会いできて光栄でした。

―――それと、先程は、ありがとうございました」



 最後の言葉は、カヅキに向けられた。


 スッと椅子を押すようにして、立ち上がった。


「まだ、食事が済んでいないよ、ルイ」


 ピエールは瑠哀の皿を見て、瑠哀を呼びとめた。


「ここにいる必要を感じません。

ここのお店がどのくらい高いのかは判らないけれど、一応、それは私の分です」

「そんなのはいらないよ。誘ったのは僕の方だからね」


 ピエールは女性にお金を出されて、少しムッとした表情をみせる。


 瑠哀は軽く髪をかき上げ、


「そのお金は大した額ではないけれど、他人におごられるのは好きじゃないの。

私もあなた同様、自分に近づいてくる人間に好ましい感情を持っていないから。

それも、初対面で優しい金持ちの男は特に、ね」


 瑠哀は魅惑的な微笑みを投げ、踵を返してスタスタと店から出て行った。
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