瑠哀 ~フランスにて~
 瑠哀はその視線を捕らえ、更に問う。


「特別、日本人に興味があるのわけでもないのに、

今日、初対面の私をどうして食事に誘ってくれたのか不思議で」

「せっかく知り合えたからね」

「この街で出会う観光客、一人一人を誘っているの?」

「そんなことはしないよ」


 ピエールが無表情に言い返す。


「だったら、なにか他に理由があるのかしら?」

「特にないよ。

偶然、サーヤが君を救けて、

丁度、それは昼を食べにいく前だった。それだけのことだ」


 ピエールは素っ気無かった。


 瑠哀は真っ直ぐ揺るぎ無い瞳をピエールに向け、口だけの笑みをみせる。


 瑠哀の心は見えない何かを探し出す方向に動いていた。

 こういう時の瑠哀は、相手の感情をなぜか感じることができた。

 そして、人の神経を逆撫でするのも得意だった。



「あなたは何をしているのか、聞いてもいい?」

「聞いて、どうするんだい?大したものじゃないよ」

「興味があって。教えてもらえないかしら?」


 ピエールはナプキンで軽く口を拭き、後ろに寄り掛かるように座り直した。


「あなたは、自分のことに触れられるのが好きではないようね。

自分の名前だけを言って、後はあなたの友人を紹介する。

私と話をしている間も、決して自分個人のことを一切持ち出さなかった。

なんだか、自分に一切関わるな、と言われているみたいね」
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