瑠哀 ~フランスにて~
 瑠哀の声はどこまでも静かだった。

 感情の起伏など表れていなく、責めているのでもなく、どこまでも、ただ、静かだった。



「たった一人の息子は、あなたの身勝手さに愛想を尽かしてあなたを置き去りにした。

義理の息子のケインは、金に目が眩んであなたの唯一の孫を狙う。

そして、実の孫のユージンには、

祖父としても認められずただその憎しみをぶつけられた。

―――これも、全て、あなたが招いた種ですよ。

ご自分でこの種を摘み取るしか、他はありませんね」


「わかっている。わかっている………」


 マーグリスは苦しそうに目を堅くつぶり、何度も何度も頷いた。


「―――だからと言って、あなたが許されないわけではありません」



 マーグリスはパッと目を開き、瑠哀を見上げた。

 瑠哀は静かに立ち上がり、とても穏やかな瞳を向けながら、そっとマーグリスの額に触れるようにする。



「私達はいつも間違いを犯します。

生きている間、ずっと過ちを犯し、そして、学んで行くのです。

過ちに気付いたのなら、それを償えばいい。

私達には、いつも、償う機会が与えられているのです。

あなたは多くの時間を失った。その分を取り戻すには、

きっと、長い時間がかかるでしょう。

―――でも、それはユージンが助けてくれるはず」



 瑠哀の声は淡々としていて、その声音には性がなかった。

 高すぎず低過ぎず、丁度良い高さのその声は不思議なほど優しく耳に響いてくる。



「私は…許されるのだろうか………?」
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