瑠哀 ~フランスにて~
Part 8
 朔也はうっすらと瞳を開けた。



 誰かが向こうで立っている気配を感じ、ハッとして目を開く。

 向かいの椅子に眠っているはずの瑠哀がいない。



 驚いて起き上がりかけ、その視界の向こうに瑠哀が立っているのが見えた。


 昨日のあの事件があってから、朔也は瑠哀の部屋に泊まると言って、簡単にまとめた自分の荷物を持って瑠哀の部屋に入り込んできた。



 瑠哀は困ったような顔をして、今度は一人で出歩かない、と朔也に伝えた。



 朔也はそれを聞かず、瑠哀の部屋にいる以外は眠るつもりはない、と言い返した。

 瑠哀は更に困った顔をして、小さく溜め息をこぼしていた。



 だが、今の朔也にそんなことを構っている暇はなかった。



 事態は想像以上に切迫していた。

 初めは、瑠哀がただあの少女に同情していいただけだと思っていた。



 だが、瑠哀は、あれは自分だ、と言う。


 ケインの狙いは、瑠哀になったのだ。



 その攻撃がユージンから逸れたことは良かったが、それと引き換えに、あいつの憎悪と怒りが真っ直ぐ瑠哀に向けられることになった。

 あんなきちがいじみた男と瑠哀をやり合わせるわけにはいかない。



 本当なら、瑠哀を無理矢理引きずってでもパリに連れかえる所なのだが、瑠哀がそれを許さないのを朔也達は知っている。



 あの揺るぎ無い真っ直ぐな瞳が、絶対に手を引かない、と言う意思を物語っているからだ。
< 200 / 350 >

この作品をシェア

pagetop