瑠哀 ~フランスにて~
 瑠哀はなにも言わず静かに立ち上がって、そこに飾ってある絵のほうに歩いて行く。

 人の顔のようなものが描かれているが、それが何を意味しているのかは、瑠哀には判らなかった。



「それで、どう思う?」

「何が?」

「僕が何をしてるのか聞きたかったんだろう?」

「別に、それに対してなにも思わないわ」


 なんだか癇に障る言い方をする。瑠哀を怒らせたいのか、あまりいい気分はしない。


「君は、僕が君になど興味がない、と言っていたね。

だが、僕は君に興味があるよ。とても、おもしろい」


 瑠哀は首だけを回して、ピエールを見た。


「僕を見て顔色一つ変えず、おまけに、僕に言い返してきた女は君が初めてだ。

これが、君をランチに誘った理由だ」

「――自惚れが強いのね」

「自惚れじゃないよ。

事実だ。

この顔に近づいてくる女は馬鹿な浮かれ女ばかりだ。

そして、僕の職業を聞いて舞い上がる。

僕を手に入れたら億万長者も夢ではない、という、くだらない妄想を抱く」


 ピエールは淡々と続ける。冷然として、そのエメラルドの瞳が突き刺すように輝いている。



「この才能に近づいてくる奴は、僕に気に入られてようとへつらい媚びてくる。

変な奴も多くてね。僕を買いたい、と言ってきた。

籠に入れて鑑賞したいそうだ」

「ひどいわ」

「ひどい?人間一人くらい買うことなど、容易なものだろう。

それに見合うだけの金を出せばいいだけだ。

ルイ、君だって僕を買えるよ」
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