瑠哀 ~フランスにて~
 ピエールはなにも言わず、食い入るように瑠哀を凝視した。


「自由はお金では買えないわ。

人の心は自由よ。誰にも束縛されず、誰にも組み伏すわけでもない。

自分自身であるという誇りとその心は、誰にも侵すことができない唯一のもの。

値段などつけられるものではないわ」

「…………………」

「心のない抜け殻を手に入れて、どうして私が幸せになれるの?

なにも言わず、なにも感じないお綺麗なだけの人形を欲しがることは、

その人間の全てを否定すること。

それと同じに、自分を理解して包容してくれる者のいない孤独と寂しさで、

虚構の世界を造り上げて、その世界に満足している。

私は、そんな人形にも、世界にも、興味はないわ。

私を愛してくれるのは、ここに存在している人間なの。

私が愛するのは、ここに心を持っている人間なの」



 瑠哀は静かながらはっきりとそれを断言した。



 ピエールは黙って瑠哀を見つめている。

 その瞳は瑠哀だけに固定されていて、瞬きもされなかった。



 瑠哀は視線を外すように目を閉じた。
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