瑠哀 ~フランスにて~
『――やっぱり、迷惑、よね』

『そうじゃなくて。

なんで、こんな若い奴らばっかりの船に引き上げられたのかな、って』


『どうして?』



 瑠哀に優しく笑いかけてくれる朔也の話していることが、瑠哀には良く理解できない。



『彼らが、君のことを何て言っているか知っている?』

『知らない』


『“Marmaidが降りて来た”ってね。

シーマンなら、結構、誰でも人魚姫の話を信じるのかもしれないけど、

あまりに君がピッタリで、

彼らも上機嫌、っていうのが気に食わない』


『でも、人魚姫って、実際は、シーライオンでしょう?

あまり天候の良くない荒海で漁師が人影と見間違えたのが発端で。

彼らが、私が人魚姫だと思って引き上げたら、

実はシーライオンだった―――なんてことは、ないでしょうし』



 くっ、と朔也は吹き出していた。


 くく、と肩を少し揺らしながら、瑠哀の髪をまたスーッと梳いて行く。



『引き上げた姫があまりに綺麗で、

そして、夢のように美しい瞳が神秘的で、

シーマンも驚いているのと、近寄りたいのと両方なんだ。

さっきから、コーヒーやらバスタオルやら、着替えやら何やらって、

理由をつけて寄り過ぎだ。

こんなずぶ濡れでいる姫を見たら、そのまま盗み去って行くだろうな。

ふざけやがって――』


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