瑠哀 ~フランスにて~
 ふいっと、あらぬ方向を向いて、

なんだか、最後の投げられた言葉が怒っていないでもないような。

 その瞳も、なんだか、キッと向こうを睨みつけていないようでもないような。



『その――姫って、まさか、私のことを言ってるんじゃないでしょう。

こんなベタベタ濡れてる服を着て一緒に歩いていも、

ボタボタ水滴が落ちるだけだわ。

きれいに拭いてある廊下や通路を濡らして、すごく、悪いと思ってるわ…』



 朔也は瑠哀の顔をただ黙って見詰めていたが、ふっと、優しく笑ってみせて、



『別に、モップで拭くだけだから、気にもしてないだろうさ。

濡れている廊下を喜んでついてくるだろうぜ。

―――それより、ルイ。着替えをして。

肌が冷たいね。風邪を引いたら大変だ』


『私は大丈夫。サクヤが先に――』

『いや。君が、先に着替えて』

『でも――』


『いいから。ルイ、君が先に着替えるんだ。

君が着替え終わったら、俺も着替えるから。

わかったね』



 瑠哀を遮って、朔也がそれを先に言い切ってしまう。

それ以上、言い返すこともできないような締めに、

瑠哀はまだ朔也を黙って見返している。

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