瑠哀 ~フランスにて~
 朔也は、そう、と言って、


『それじゃ、ゆっくり休んで。

何かあったら、構わずに俺を呼んで。

夜中でもかまわないから。いい?』


 瑠哀の頷くのを見て、朔也は扉に手をかける。その背中を、瑠哀は呼びとめた。


『――朔也、さん?』


 朔也は振り返る。


『……どうもありがとう、いろいろと』


 朔也は優しく微笑んだ。


『サクヤ、でかまわないよ。お休み』


 パタンとドアが閉められた。



 瑠哀はベッドに腰を下ろす。

 パリに来て以来、たくさんのことが一気に起こり過ぎてしまって、頭の整理がつかなかった。



 そこに運ばれたスーツケースに目をやると、その鍵穴もこじ開けようとした形跡が残っている。

 幸い、瑠哀のスーツケースはダブルブロックがついているので、鍵穴だけを壊しても開けることはできない。



 朔也が部屋を提供してくれて、本当に助かった。ここなら、勝手に忍び込まれるようなことはないだろう。

 ここに来る途中、朔也は尾けられている気配はない、と言っていた。



 だが、安堵している反面で、罪悪感が瑠哀の心を突いているのも事実だった。

 だが瑠哀がトラブルの原因なのに、朔也の家に転がり込むことは、そのトラブルを朔也にも持ち込んでしまったことになる。



『………困ったわ』


 瑠哀は、もう一度、大きな溜め息をついていた。
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