瑠哀 ~フランスにて~
 朔也はくすりと笑う。


『退屈しないだけのものは、揃っていると思うよ。休暇にはぴったりの場所だ』

『来たことがあるの?』

『以前にね。

ピエールは気が向いた時しか来ないから、人を雇って管理させているんだ』

『さっきの人?』

『そう。彼は、ここの執事なんだ。ここに住んでいる、ね』

『気が向いた時って、毎年は来ないの?』

『そうだな……、最後にここを訪ねたのは、三年前だったかな』



 三年も使わぬままにしている屋敷があるなんて………。

 維持だけでも大変だろうに、そういうことを気にしないのが、ピエールだった。



 瑠哀は用意された部屋に通された。

 部屋には冷房が完備してあったが、それほど暑くは無かったので、冷房のスイッチをOFFにして、窓を開けてみた。



 その隣にはバルコニーがあり、そこも開けてみる。

 開けた瞬間に海の香りが部屋に押し込めてきて、今までとは違う場所にきていることを実感させる。



『わぁ、すごい…!もしかして、プライベートビーチなのかしら』



 目の前に広がる海岸は、驚くほど静かで、誰もいない。

 その海岸線をたどって行くと、向こうの方にパラソルを差したりと、たくさんの人が活動しているのが見えた。



 瑠哀は手早くスーツケースの中のものをクローゼットに入れ、残りの荷物は後でほどくことにした。
< 45 / 350 >

この作品をシェア

pagetop