瑠哀 ~フランスにて~
 ボートと言っても、かなり大きなサイズのヨットもあれば、二~三人用の小さなものもあった。

 ボートが置かれているくらいだから、そう浅瀬でもないだろう。



 少し離れているボートに飛び乗ったりしたら、何かの拍子にボートがひっくり返るかもしれない。



 そう思いながら、気をつけて見ていると、ボートの端に足をかけ外して、その子供がボチャンと海の中に落ちた。

 それと同時に、そのボートが引っ繰り返る。



『―――ちょっと…!!!』


 子供がボートの下に閉じ込められた?!


 考える間もなく、瑠哀は駆け出していた。


 桟橋にたどり着いても子供の姿が見えない。



 ゴボッ、と泡が浮きあがり、一瞬、子供が浮きあがる。

 バタバタと手を動かしながら、救すけを呼ぼうとして、また沈み込む。



 瑠哀はなにも考えずに飛び込んだ。もがいている子供の後ろにまわりこみ、その顎を捕まえた。


 そのまま泳いで桟橋に押し上げ、自分も押しあがる。


「もう、大丈夫よ。大丈夫」


 その背中をさすりながら、しっかりと子供を抱き締めた。


 子供は助かったことに安堵してか、気が緩み、大声をあげて泣き出した。


 その背中を何度もさすりながら、大丈夫だ、と繰り返す。


――――こんな偶然があるのかしら……!?
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