瑠哀 ~フランスにて~
『二日でこの傷が治るとも、思えないんだけどな……。それに、あざも』


 瑠哀はバスルームで服を脱ぎながら、全身に目を向けていた。



 昼間、セシルにカンヌでのセレモニーの話をしたら、どうぞお願いします、と頭を下げられた。

 昨日のことで、よほど滅入っているのだろう。

 それに、ユージンも怯えている。



 事態の鍵を握っているのはマーグリス氏だと思い込んでいるようで、瑠哀もなんとも言えない状態だった。

 そう考えるのも不思議はないことだが。



 ここにセシルとユージンがいることを知っているのは、彼だけなのである。

 彼を疑いたくなるセシルの気持ちは良く判る。



 傷に触れないように手を上げてシャワーを浴びて行く。

 腰や手足には、まだ、どす黒い青紫のあざがくっきりと残っている。

 大半は治りかけていて、黄色く腐ったような色になってきていた。



 どちらにしても、目に醜いのは言うまでもない。



 片手が不自由なので、シャワーも時間がかかる。

 バスタオルを体に巻いて出ると、微かにだったが悲鳴が聞こえた。



 パッと、簡単に着れる洋服を手に取り、それを頭からかぶって急いで下に降りて行った。

< 80 / 350 >

この作品をシェア

pagetop