極上御曹司のイジワルな溺愛
声が大きいとか、女性に向かっていう言葉?
そりゃね。あながち間違いとは言えないけれど、ムニャムニャムニャをする前にそんなこと言われたら、気になってしまって集中できないじゃない。
ひとり頭の中であーでもないこーでもないとやっていると、そんな私を見ていた蒼甫先輩が盛大に笑いだした。
「はははっ! 椛、面白すぎ。冗談だよ、冗談。まあ今日のところは我慢してやる。でも次は……いいな?」
そう言って私の頭を撫で見つめる視線は妖艶で、体に甘い痺れが走る。
「さてと。俺、風呂入るわ。あ、椛も一緒に入る?」
なんて言葉をサラリと言ってのけるから、開いた口が塞がらない。
「……お風呂……一緒に……」
蒼甫先輩は同じ言葉を繰り返しボーッとしている私の頬に唇を這わすと、満足げの笑みを残し廊下の奥へと消えていった。彼の姿が見えなくなった途端に体の力が抜け、ペタンと床に座り込む。
「もう、なんなのよぉ~」
今となっては本気だったのかもわからないけれど、一応そこそこ恋愛はしてきた二十九歳にもなった女が、からかわれて腰砕けになってしまうなんて。
「破壊力抜群……」
蒼甫先輩が、まさかあんな甘い言葉や仕草ができるひとだったとは……。
十年近くもそばに居たのに、全く気づかなかった。