極上御曹司のイジワルな溺愛
ここで大声を上げたら、他の誰かが巻き込まれるかもしれない。かと言って女の私ひとりが向かっていたって、男を止めることができるだろうか。

……って、もう! 私の頭、ちゃんと働け!!

パニックを起こしている間にも、男は一歩ずつ近づいてくる。

これってかなり、ヤバい状況じゃない?

わけがわからなくなって辺りを見渡すと、柱の陰に蒼甫先輩を見つけた。

先輩もこの状況に気づいているらしく、私に身振り手振りで下がってろと伝えてきた。

そんな簡単に下がれって言われても、私だって怖いんです!

足が竦んで、中腰のまんま一歩も動くことができない。

蒼甫先輩に向かって『無理!』と首を横に振っていると、その目線に男の姿が入る。まるでスローモーションのように男を見ると、そいつは目をカッと見開き「梨加! お前は誰にも渡さない! お前は俺のものだーーーっ!!」と叫んで、猛ダッシュで走り出した。

「イヤーッ!! 誰か助けて!!」

溝口さんが叫び、その場にしゃがみ込む。

このままじゃ、溝口さんが危ない──

そう思った瞬間、蒼甫先輩は大声を上げ彼女の前に立ち塞がった。

「やめろっ! みんな、この場から逃げるんだっ!!」
「蒼甫先輩!」
「椛も早くしろっ!!」
「そんなの無理!」

蒼甫先輩だけをおいて逃げるなんて私にできるわけないじゃない。蒼甫先輩は絶対に私が守る!

後先考えず走り出すと「ダメーッ!!」と叫びながら、蒼甫先輩を押し飛ばした。と同時に走り込んできた男が「わああぁぁぁーっ!」と叫びながらぶつかってきて、私はその衝動にその場に足元から崩れ落ちる。

その場が一瞬シーンと静まり返り、男が持っていた包丁が床に落ちた音が響いた。



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