極上御曹司のイジワルな溺愛
『目の前で恋人が刺されたんだよ? 心配するなって方が難しいと思わない?』

麻奈美はそう言っていたけれど……。

「だからって、仕事にまで口を出されても……」
「ん? 何か言ったか?」

私の前を歩いている、蒼甫先輩が振り向く。

「いや、いや、いや! なんにも言ってません」

危ない。つい声に出してしまった。

右腕で資料を抱え、蒼甫先輩の隣に並ぶ。

しばらくふたりで廊下を歩いていると、階段を上がってきた麻奈美とばったり遭遇する。

「副社長、お疲れ様です。その後、椛の調子はどうですか?」
「お疲れ。左腕がちゃんと動くようになれば、本格的な仕事復帰もできるだろうが、今はまだ無理だな。もう少し手間をかけるが、よろしく頼む」
「わかりかした。じゃあ」

そう言ってにっこり微笑むと、麻奈美は私の横を通り過ぎようとする。

「……って、何がじゃあよ。目の前に私がいるのに見えない? なんで私のことを蒼甫先輩に聞くの? それって何かおかしくない?」

麻奈美の腕を掴み、グイッと詰め寄る。

「なんでって簡単なことよ。椛に聞いたって馬鹿のひとつ覚えみたいに、大丈夫しか言わないじゃない。私はあんたに無理して仕事をしてほしくないわけ。そしてそれは副社長も同じ。だから椛の管理をしてる副社長に聞いたの。わかった?」
「管理って……」

さすが、麻奈美。よくもまあ次から次へと、言葉が出てくるもんだ。



< 264 / 285 >

この作品をシェア

pagetop