極上御曹司のイジワルな溺愛
でも麻奈美の言ってることは、何ひとつ間違っていない。左肩から腕以外はどこも痛くなく元気だから、つい何でもできると思い「大丈夫」が口癖みたいになっていた。

「こんな時しかのんびりできないんだから、ちゃんと副社長の言うこと聞いて、大人しくしてなさい」
「はい……」

叱られた子供のようにシュンと肩を落とすと、蒼甫先輩が私の頭にポンと手を置いた。

「椛も遠山さんの前だと形無しだな。でも彼女の言うとおり、今は肩の傷を完治させることが最優先だ」

今の私には、蒼甫先輩のその言葉に頷くことしかできなかった。



「里中さん、ちょっといい?」
「はい」

新見さんに呼ばれて席を立ち、パソコンとにらめっこしている彼女の元へ向かう。

「池田さんと藤崎さんの進行表って、もう出来上がってるかしら?」
「あ、それなら、明日最新のものがこちらに届くと思います。新見さん、今回はすみませんでした。何件もお願いしてしまって」

私が直近受け持つはずだった仕事は、何人かの司会者に変わってもらうことになった。その中でも新見さんは「年末助けてもらったお礼よ」と言って、数件受け持ってもらっている。

「何しおらしいこと言ってんの。持ちつ持たれつ、助け合いの精神でしょ? すみませんって思うなら、早くその傷治しなさい」

そう言って新見さんは、私の左腕を吊っているアームホルダーをちょこんと突付く。

「イタッ……」
「ほらね、まだ痛むんじゃない。あなたは雅苑に必要な人なの、私たちにとっても副社長にとっても、ね?」

立ち上がった新見さんはパチンとウインクしてみせると、スタッフルームを出ていった。



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