極上御曹司のイジワルな溺愛
だから蒼甫先輩は三十になっても結婚できないのか? イケメンで副社長。条件は申し分ないのに、浮いた話ひとつ聞いたことがない。
大学生の頃は彼女がいたみたいだけど、今はどうなんだろう。
ひとりでブツブツ呟きながら足を止めていると、いつの間にかそばにいた蒼甫先輩が私の頭を小突いた。
「俺がどうしたって?」
もしかして、全部聞こえてた?
「い、痛いんですけど。どうしてすぐ暴力振るうんですか?」
三十になっても結婚できないのは、この性格が災いしているに違いない!
「暴力? 心外だな。愛のムチと言え」
いやいや今のは、私のためを思っての叱責じゃなく、先輩の大柄な態度がもたらした小突き。愛のムチなんて言葉で片付けないでもらいたい。
「暗証番号は?」
ウィークリーマンションのオートロック式の鍵の暗証番号を、蒼甫先輩に教える。先輩はパパッと番号を押し終えると、自動ドアの共用玄関が開くと同時に中へと入っていく。
「せ、先輩、早いですって。部屋は二階の……」
部屋番号を叫びながら、先輩の背中を慌てて追いかけた。