極上御曹司のイジワルな溺愛
「はじめまして、矢嶌蒼甫と申します。いつも椛がお世話になっているようで。今日は彼女のスーツを僕が選んであげようと思いましてね。こうして一緒に買い物に来た、というわけです」
蒼甫先輩は紳士的にそう言ってにっこり笑うと、私の肩をふわりと抱く。その仕草はまるでどこぞの国の王子様さながらで、店員もうっとり見惚れている。
私はと言えば……。
肩を抱かれて固まって、わなわな震えながら蒼甫先輩を見上げていた。
いま蒼甫先輩、自分のことを“僕”って言ったよね? それに言葉遣いがよそいきと言うか普段と違っていて、一瞬詐欺師かと思ってしまった。
しかもこの一連のやり取りを他人が見たら、明らかに私と蒼甫先輩はとても仲のいい親密な関係に見えるだろう。
「先輩。これは新手の嫌がらせですか?」
こそっと店員に聞こえないように呟く。
「嫌がらせとは心外だな。俺は素直な気持ちを、言葉と態度に表しただけだ」
真剣な顔をしてまともなことを言っているようだけれど、それ私には全く理解できません。
なに、素直な気持ちって? それって今この場所で必要なこと?