ETERNAL CHILDREN 2 ~静かな夜明け~

 視察を終えると、シイナはついてきたクローン達にも仕事に戻るよう言い置いて資料倉庫へと向かった。
 丁度、探そうと思っていた資料があったのだ。
 データ化は、すでに計画が立てられたが、それは配置換えが完全に終わってからなので、まだ、倉庫には誰もいないはずなのだ。
 倉庫の中は、案の定誰もいなかった。
 今回の目当ては、比較的年代が新しいものなので、上に上がらなくていい。
 真っ直ぐに、シイナは奥の棚へと向かう。
 資料はすぐに見つけられた。

 一人きりの、静かな時間。

 ほっとして、シイナは作業に没頭した。
 そうして、しばらくして、シイナが見つけた資料を読みふけっていると、不意に、室内の明かりが消えた。
「?」
 停電か、それとも、誰もいないと思ってクローンの誰かが気を利かせて明かりを消したのか。
「誰か、明かりを消した?」
 声をかけてみるが、返答はない。
 見ると、非常時に点くはずの足下の非常灯も点いていない。
 資料倉庫のため、明かり取りの窓もなく、完全な暗闇だった。
 まさか、本格的な停電か。
 シイナは手持ちの資料を持ったまま、入り口へと向かう。
 棚づたいに行けば、さして困難もない。
 暗闇の中、シイナはゆっくり進んだ。
「――」
 不意に、誰かの気配がした。
 ここには、シイナ一人しか居ないはずなのに。
 同時に、背後から抱きすくめられた。
「だ、誰!?」
 返答はなかった。
 体重をかけられ、床に膝をつかされる。持っていた資料が床に落ちた。
 背後から自分を押さえつけていた手が、胸を覆ってまさぐった。
 その感覚に、恐怖を憶えた。
 その腕から逃れようと身体を捻る。
 前のめりになったところへ、さらに体重がかかり、床に倒された。
 すかさず、仰向けにさせられ、暴れられないように自分より大きな身体がのしかかってくる。
 暗闇に慣れた視界でも、相手の顔は見えない。
 真っ黒な影が襟元を開いて、胸元が露わにされる。
「やめなさいっ! どういうつもりなの!?」
 制止を聞かない乱暴な動作が、シイナの行動の自由を奪う。
 首筋に触れる唇。
 押しつけられる身体。
 無造作に施される胸への愛撫。
 シイナは激しい嫌悪で背筋を震わせた。
「いやっ!!」
 押し退けようと手をのばすが、相手の身体はびくともしない。
 悪寒が止められない。
 こらえきれない嘔吐感が襲ってくる
 顔を背けたシイナの視界に、床に転がったペンの鈍い銀色が辛うじてとらえられた。
 シイナは無我夢中で手を伸ばし、掴み取ったそれを相手の腕に力をこめて突き立てた。
「!!」
 悲鳴はあがらなかった。
 ただ、苦痛に息を呑む音が聞こえた。
 だが、影はすぐにシイナから離れ、そのまま身を翻し、消えた。
 すぐに扉が開く音がした。
「……」
 身体が震えて力が入らない。
 それでも、シイナは無理に身を起こし、乱れた衣服を整え、よろめくように扉へと向かった。
 扉が開くと、暖かな光が暗がりになれたシイナの瞳を刺した。
 目を閉じて、刺激に耐える。
 それから、目を開けた。
 廊下には誰もいない。
 その気配もない。

 今のは、一体――?

 不意に、フジオミの顔が脳裏に浮かんだ。
 いや、違う、フジオミではない。
 そうだ。
 彼がこんなことをするはずがないのだ。

 では、一体誰が。

 そこで初めてシイナは恐怖した。
 フジオミでないのなら、当然犯人は別にいるのだ。

 このドームの中の、誰かが。
 自分を、襲おうとした。

「シイナ」

 突如かけられた言葉に、シイナは驚いて身を竦ませた。
 振り返ると、フジオミだった。
 訝しげな視線を、シイナに向けている。
「どうしたんだ?」
 思わず彼女はフジオミの腕を見た。
 が、何処にも傷跡はない。
 それらしき気配も見せない。
「顔色が悪い。気分でも悪いのかい」
「いえ。違うの。そうではないの――」

 やはり、フジオミではない。

 そう確信し、シイナは安堵した。
「……」
「シイナ!?」
 身体が傾いだのが、シイナにもわかった。
 フジオミの腕の中で、彼女は意識を失った。







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