白銀の女神 紅の王(番外編)
風邪が悪化したと感じたのは朝には分かっていたはずだ。
何も言わずに城を出たエレナにだんだんと小さな怒りがわいてくる。
「いつ帰ると言っていた」
もはや机の上の書類など目に入らず固い声でそういうが、ウィルは相変わらず書類を見ながら答える。
「さぁ…それは言っていませんでした。風邪が治れば帰ってきますよ」
帰ってくるのは当たり前だ。
問題なのはエレナが城を出たということだ。
ウィルが見送ったということは護衛はつけているだろうが、また何かあったら後悔するのは俺だ。
だからどこへ行くにしろ、エレナ外に出るときは公務がない限り俺がついて行っていた。
護衛は十分つけているだろうか…
口をつぐんで黙り込んだ俺にウィルはやっと顔を上げる。
そして俺の顔を見て柔らかく笑った。