FatasyDesire~ファンタジー・ディザイア~
 ――つんざくような悲鳴と共に、それは現れた。



 クレドとヨシュアは一瞬にして翡翠の光に包まれ、その強すぎる眩しさに咄嗟に目をつむった。



「がは……ッ!」




 そして、クレドが目を開けた時には、目の前にヨシュアはおらず、離れた後方の石壁に叩き付けられていた。


 ヨシュアはいきなり起こった異常現象に驚く暇もなく、勝手に体が吹っ飛ばされ、背中から頑丈な石壁に突っ込んだ。




 別に二人の間に強烈な竜巻が発生したわけではない。


 ヨシュア一人が吹っ飛ばされたのだ。


「ゴホッ……ゲホッ」


 石段に叩き付けた時、キリエが咳き込んでいた時とまるで同じだ。
 まさか自分にそれが倍になって返ってくるとは思わなかった。


 突っ込んだ衝撃で石壁には罅[ヒビ]が入り、パラリと石の破片がヨシュアの青い髪に降る。


 吹っ飛ばされた時に持っていた拳銃もナイフも手から離れてしまった。




 骨の一本か二本折れたに違いない。


 


 クレドは慌ててキリエを見る。


 大粒の涙を流しながら、しゃくり上げていた。

 小さな子どもがキレたような眼差しでヨシュアを睨み付け、肩で大きく呼吸していた。



「キリ、エ……?」



 そしてクレドの声にハッと我に返り、自分が犯してしまった事態に気付いた。



「あ……わ、たし、いまっ……」



 キリエは両手を茫然と見詰め、そのままそれで顔を覆った。


 彼女は、クレドを護りたかっただけだ。
 決してヨシュアに攻撃を仕掛けたかったわけではない。


 また、誰かを傷付けてしまった。





「ごめ、なさ……っ。ごめん、なさ、い」


 キリエは顔を覆ったまま、泣きながら謝罪すると、その場にへたり込んでしまった。


 後方で苦しそうに咳込むヨシュアを振り返り、もう彼に戦う体力はないだろうと確認して、クレドはキリエの傍らまで駆け寄った。



「キリエ。大丈夫か? 何処か怪我は」


 クレドがしゃがみ、優しく肩に手を添えると、キリエは堪えきれずに飛び付いた。



 このフォレストへ来て本当の危険を身をもって知り、キリエの幼い精神には確かなダメージを与えていた。




 ただ声をあげて号泣するキリエの背中をポンポンと叩き、その小さな体を横抱きにして立ち上がる。



 今ここでヨシュアに止めはさせるが、キリエを前に優先することではない。



 クレドはしっかりと自分にしがみ付いて離さないキリエに、静かに「護れなくてごめん」と一言ささやいた。



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