FatasyDesire~ファンタジー・ディザイア~
 珍しく午後からの仕事はなく、ジュリナの説教を聞き終えると館から出た。

 クレドは昼下がりの陽射しに目を伏せ、もう随分夏に近付いたものだと蒸し暑そうに襟巻きを掴んで小さく扇ぐ。



 数秒そうしてから、スピカにいるキリエを迎えに行く。



 この前の一件からキリエは素直にスピカに行くようになった。


 クレドに対して罪悪感を持っているのか、あの時の恐怖を二度と味わわないようにか。


 恐らくはその両方である。




 そのことに気付いているも、「キリエのやりたいようにやればいいんだよ」と言うことはできない。


 その一言がどれほど無責任な言葉かをわかっているからだ。



 そこだけ空間の違う自動ドアの前に立つと、静かに頑丈そうなドアが左右に開いた。


 クレドの存在にいち早く気付いたのはもちろんキリエで、トーマの隣からこちらに駆けてきた。



「おかえりなさいクレド!」


 いつものように愛らしく飛び付いてきた小さな体を受け入れると、デスクに頬杖をついたトーマが呆れたように笑う。


「ただいま、いい子にしてた?」


「してたよ! ね、トーマ」


 キリエはくるりとトーマに振り返り、自信満々の顔で同意を求める。




「うん。キリエちゃんは誰かと違って素直でいい子だったよ」


 ニコリと微笑んだトーマの言わんとすることはわかるが、それもスルーして、クレドはキリエの頭を軽く撫でた。



 いつものように微笑ましいその光景に、トーマは少しだけ口角を下げ、それからまた少し上げた。



「そうやってると、本当の兄妹みたいだね」


 ポロリと無意識に出た言葉だった。

 トーマはじっと二人を見比べては、童話に出てくるお菓子の家に辿り着いた兄妹を連想していた。



 何処までも二人で手を繋いで、窮地に追いやられても二人で脱出し、いつまでも仲睦まじく過ごしていくのだろう。


 理由も根拠も、充分にある。


 二人の相思相愛ぶりには時たま、虫歯でもできてしまうのではないか、そんなことを考えてしまう程甘いものである。


 相思相愛の恋人にも見えないことはないが、最愛の妹とそれを一心に守る兄の図が一番しっくりくる。




「ガーネットのみんなが家族だから、わたしとクレドもきょうだいだよ」


 ね、と言われ、クレドは満更でもなさそうに頷いた。



 兄妹だと恋愛はできないんだけどね、という野暮やセリフは閉じ込め、トーマは「そっか」と笑った。



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