銀の精霊・森の狂王・時々、邪神
 神を見下すその態度が、どれほど滑稽に見えているのか自分で気付いていない、狂った王。

「余を見下しているのか?」

 あたしはハッと息を呑んだ。

 ヴァニスはいつの間にか石柱ではなくあたしを見ている。

「そんな目をしているぞ。お前は」

 見下す? あたしがヴァニスを見下している?

 あたしはうろたえた。

 だってそれは、当然でしょう? 人間のくせに神様に刃向かうなんて、普通に考えて滑稽だもの。

 そうよ、当然よ。だから別に、あたしが後ろめたい気持ちになる必要なんて無いわよ。

 愚かな勘違いをしているのはヴァニスの方で……。

「余を、愚かな考えの持ち主だと思っているのであろう?」

 グッと言葉に詰まる。

 さっきから、痛いぐらいズバリと思考を読まれて、体裁が悪い。

 なんだか身の置き所が無い。

 なんだろう。妙な罪悪感にも似たこの感情は。

 あたしに非は無いはずなのに、なぜかヴァニスの顔を堂々と見られない。

 ……そうだ。この目だ。まっすぐあたしを見つめる、この冷静な目のせいだ。

 決然とした意思のこもった黒い瞳からは、少しも感じられないんだ。

 悪意や、狂気といったものが。
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