銀の精霊・森の狂王・時々、邪神
 射抜くような視線と、強いまっすぐな目。

 離れた場所からでも、痛みを感じるほどの強烈な眼差しがあたしを不安にさせる。

 アグアさんを助け出し、狂王を改心させる。
 そして全て世界は元通り。めでたしめでたし。
 そうなると思っていた。でも……。

 この男が立ちはだかる。
 きっと予想だにしなかった、何かが起きる気がする。

 そして事態を、あたし自身までもを変えてしまいそうな予感がする。

 何が起こるかは想像もつかないけれど、だからこそ、あたしは恐怖を感じる。

 あの男の、どこまでも自分を信じる強い意志に対して、あたし自身がが飲み込まれてしまいそうな気がして。

 出会う前に感じていた、狂王への恐怖。

 それとはまるで違った恐れを、今あたしは、ヴァニスに対して感じている。

 ヴァニスがこちらに向かって歩き出すのが見えた。

 あたしを見つめたまま、一歩一歩、確かな足取りでバルコニーを歩いて接近してくる。

 あたしは、窓の木戸を勢い良く閉めた。
 窓に背を向け、激しく鳴る胸を押さえる。

 明日はヴァニスと城下の視察。

 ……嫌な予感がする。ヴァニスに会いたくない。明日なんか来なければいい。

 雨が降らないかな? 悪天候なら視察も中止になるかも。

 あたしが雨乞いすれば効果があるんじゃないかしら?

 ねぇジン……ジン……。

 あたしは心の中で縋りつくように、何度も繰り返しジンの名を呼び続けていた……。

< 252 / 618 >

この作品をシェア

pagetop