銀の精霊・森の狂王・時々、邪神
「お前が元の世界に帰れるかどうか、方法も保障もどこにも無い」

 ヴァニスの言葉に、あたしは心の中で答えた。

 ううん。方法はあるのよ。
 世界の神々が力を取り戻せば、おそらく帰れるはずだとモネグロスが言っていた。

 だからそのために、ヴァニス、あなたが心を入れ替えて……。

「だが約束しよう。たとえ帰れずとも、余が雫の面倒をみる」

 ……。

 ヴァニス?

「何も心配はいらない。城で暮らせば良い。マティルダも喜ぶ」

「……」

「この国へ来た以上、お前は余の大切な国民だ。国王として責任を持って保護すると断言しよう」

「ヴァニス……」

「だから、泣く事はない。もう案ずるな。安心して良いぞ」


 ヴァニスの言葉も、あたしを見つめる目も、真摯だった。

 嘘じゃない。本当に彼は、あたしを庇護してくれるつもりなんだ。

 ヴァニスの政策を引っくり返して、痛い目をみせようとしている、このあたしを……。

 あたしはヴァニスの顔をまともに見れずに、視線を逸らす。

 分からない。この男が分からない。

 剣であたしを脅したのも事実。

 あたしに、こんな優しい言葉を掛けてくれるのも事実。

 狂王と噂されているのも事実。名君と慕われているのも事実。

 分からない。見えない。

 どんなに事実に目を凝らしても、奥の深いところが見えない。見えないの。

 このままじゃひょっとしたら、またあたしは……

 後になって『どうしてあの時』と、悔やむ事になる予感がする。

 それが怖い。とてつもなく。

 得体の知れない漠然とした不安が湧き上がってくる。

 押し込めてしまいたいのに、どんどんと頭をもたげてくる。
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