銀の精霊・森の狂王・時々、邪神
「ジン、やめて! もうやめて――!!」

 振り絞るようにジンに向かって叫んだけれど、掻き消されて届かない。

 あたしの声は、彼にはまったく届かなかった。

 ヴァニスが素早く剣を抜き、身構える。

 一瞬で彼の全身に激しい闘志が漲り、刀身に王家の紋章が刻まれた剣が応えるように鋭く輝く。

 ヴァニスを狙って降り注ぐ礫の嵐を、彼は目にも止まらぬような早業で、次々と的確に振り払っていった。

 そして空中のジンを鋭く睨み上げる。

 それでもジンは、一向に怯む様子は無かった。

 憎しみのこもった目で、ヴァニスの視線を空中で受け止めながら、指先をクイッと軽く上向ける。

 その動作ひとつで、あたし達の髪が天に向かって突き立つほどの風が巻き起った。

「う……わ……!?」

 あまりの風の勢いに、ぐっと息が詰まる。

 地面に落ちていた、粉々になった瓦礫や小石、細かい砂まで瞬時に舞い上がり、それらがジンの周囲に集合した。

 冷徹な銀色の目でヴァニスを見下ろすジンの両腕が、ゆっくりと頭上に掲げられる。

 それに引かれる様に、周囲の瓦礫たちもゆっくりと持ち上げられた。

 そしてジンの両腕が思い切り振り下ろされるや、唸る音と共に突風が発生する。

 持ち上げられた全ての瓦礫たちが、ヴァニスに向かって襲い掛かった。

 瓦礫はともかく、全ての小石や砂の粒まで剣で払うのは不可能だ!

 小石とはいえ、あの風速であの量が一気に襲い掛かってきたら……!

 あたしは息を呑んで身震いした。

 ヴァニス危ない―――!!
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