銀の精霊・森の狂王・時々、邪神
 絶対そうに違いない! なんでそんな事したのよ!?

 アグアさんに誤解を生ませて、こんな姿にして、それに何の意味があるっていうの!?

「穢れ、だ」

「け、けがれ!? それがいったい、なんなの!?」

「穢れによって、心は醜く染まるのだ」

 穢れ。

 一点の染み。

 それはじわじわと侵食する。

 純白の生地に落ちたひとつの汚れ。箱の中で、ひとつだけ腐った食べ物。

 それは広がる。汚染していく。

 たったひとつの小さな穢れが、やがて、関係の無い全ての物を巻き込んで。

 ありとあらゆる全ての純潔も純真も、あっという間に暗黒に染め上げていく。


「あ、ありと、ありとあらゆる全て?」

 中毒患者のように宝石に固執するマティルダちゃんや侍女達。

 人が変わったようになってしまった町の人々。

 そう。元々みんな、こんなじゃなかった。

 マティルダちゃんはとても素直で純真で、侍女達は気立てが良くって働き者で。

 町の人達は明るく実直で誠実だった。皆、揃って善人ばかりだった。

 こんな簡単に良識を捨て去るような人達じゃない。

 穢れが、彼らの心を侵食したんだ。

 ひとつの果物についたカビが、あっという間に全部の果物に感染していくように。

 免疫の無いウィルスに感染するかのように、彼らは簡単に堕ちた。

「そのためにアグアさんを、こんな目に遭わせたのね!?」

「この世で最も別格で、清涼なる精霊アグア。それがひとたび汚染した威力は、こちらの期待以上の威力であった」
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