銀の精霊・森の狂王・時々、邪神
 眩暈がする。
 立っていられなくなって、ガクリと床に膝をついた。

 ああ……なんて……こと……。

『雫がこの世界に来たのに気は意味がある』

『雫は特別な人間』

 みんなが、そう言ってくれた。

 だから、あたしは、そうなるべく努力した。

 懸命に、必死に、諦めず、道行く先の光を信じて前に向かって進んだ。

 それが……それが……

 全部、この状況になるために仕組まれていた。

 道行く先に光なんて無かったんだ。

 進めば進むほど、破局に向かって突き進んでいたんだ。

 そうとも知らずに、あたしは。

 旗振って、大声を上げて

 愚者の行進のように堂々と胸を張り

 進んで、進んで、自分を信じて

 皆を崖っぷちに誘い込んでしまった。

 これがあたしの役割。この世界に呼ばれた理由。真の意味。

 偶然ではない、必然。あたしがもたらした結果。

 あぁ、あぁ……ああぁ……

「あああぁぁぁ――――!!」

 両手の骨も砕けんばかりに、あたしは床を殴りつけ絶叫した。


「時は満ちた」

―― ズルリ。

「今この時より」

――ズルリ、ズルリ。

「始祖の神降臨の幕開けである」

―― ズルウゥ。

 顔を上げたすぐ目の前に、アグアさんの狂った水色の目があった。

 触れ合うほどの至近距離で獣の目に射すくめられ、あたしは呼吸も忘れて硬直した。

 ほんの一瞬、時間が止まったような錯覚に陥る。

 やがてヘドロにまみれた片腕が上がって……

 恐ろしい力で、身動きできないあたしの頭を鷲掴んだ。
< 439 / 618 >

この作品をシェア

pagetop