銀の精霊・森の狂王・時々、邪神
 ノームが悲しげに俯き、そして顔を背けながらギュウッと目を瞑る。

「ガアァァァ!?」

 アグアさんが苦痛の呻き声を漏らした。

 強烈な力で締めつけられた腕がビクビクと脈打ち、今にも潰れる寸前だ。

「モネグロス、オアシスの兄弟たち、アグア……許してください!」

 ノームの手から新たな蔓が大量に噴き出し、アグアさんの全身を覆い尽くした。

 まるでドームのような分厚い蔓の固まりの中から、悲鳴が聞こえる。

 死に物狂いで暴れる彼女を取り込んだ蔓全体が、みるみると収縮していった。

「ノ、ノーム!? どうするつもりなの!? このままじゃアグアさんが圧死してしまうわ!」

「アグアはもう、だめです」

「ノーム!」

「救えない。救いようがないんです。こんなにまで染まってしまっては、もう」

 蔓のドームの中から響く怨嗟の唸り声が、どんどん大きくなっていく。

 その底の知れぬ悪意、憎悪。どこまでも増幅していく心の闇。

 それがどれほど恐ろしく、抗う事のできないものかは、あたし自身が一番良く知っている。

「このままでは、世界に汚染がひろがるばかりです。とめるには、もう……」

 もう、ここで殺すしかない。

 心優しい土の精霊ノームが、その手で命を奪う。

 しかもアグアさんは、ノームの兄弟達を救う事のできる唯一の存在。

 まさに断腸の思いだろう。
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