銀の精霊・森の狂王・時々、邪神
 抜けるような青い空と、その空を突き刺すようにそびえる、遥かな連峰。

 山の頂は、真っ白な雪化粧で美しく覆われている。

 磨いた鏡のように澄み切った湖の水面には、青空と、山の姿が写真のように綺麗に写りこみ、地面は緑色で覆われて、赤と紫の可憐な花が一面揺れている。

 湖をグルリと囲むように並び立つ、背の高いたくさんの木々からは、小鳥のさえずりが聞こえてくる。

 なんて美しい風景だろう!

 あたしは息をするのも忘れるほどに、その景観に魅入られた。

「森の人間の国? ここが?」

「ああ、間違いない」

「なんて綺麗な所なの? 素晴らしいわ」

「神達が、人間に最も住み良い環境を与えたのさ。惜しげも無い愛情でな」

 その冷たい口調に、あたしは我にかえった。

 そ、そうだった。
 あまりの景観の素晴らしさに、ついスイスあたりに観光旅行でもしてるような気になっちゃったけど、ここは敵地。

 狂王の治める人間の国なんだったわ。

「ここにアグアが捕らえられているのですね。神の船よ、ありがとう。着きましたよ」

「そうだ、船! 船は!?」

 船は……かなりボロボロだった。

 番人に破壊された部分と、突っ込んで壊れた部分はメチャクチャで、お世辞にもまっとうな船の形を成しているとは言えない。

 こんなひどい状態になってしまったなんて。
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