【神様の悪戯】


「今日、行くのか?」

 ジャケットの袖に腕を通していると、背後から投げかけられた声に動きがぴたりと止まった。

「…当たり前でしょう」

 一瞬間を空けてしまったけれど、すんなり返した。
 彼の溜息が聞こえる。それを知らないふりする。
 私だって、本音はいやなの。
 でもね。
 嵐にあっても、雷に打たれても行かなきゃ。
 大げさかも知れないけれど、当たり前だわ。
 仕事だもの。
 私、それしか取り柄ないのだから。


 私は20代向け雑誌の出版社に勤めている。担当は編集・企画。
 新卒で入社してもう6年目。部署は一回変わって以来変わらず。
 28歳。彼氏あり。
 企画もボツにされることも終電で変える機会も減ってきた。
 順風満帆で、結構な人生。
 だからって、特別に出世頭ってわけでもないのだけれど、重宝されやすい人間らしく仕事に困ったりしない。
 そんな私が先週オンされた仕事は、某アイドルとデートする特集記事の、「平凡OL役」だった。
 そして、今日がその撮影日。


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