俺様ホストに愛されて
言えなかったさよなら


部屋を出た途端、カバンに入れていたスマフォが鳴り出した。


ディスプレイに写し出されていたのは、あたしの働くお店の名前。



なんとなく予想はしていたから、別に驚きはしない。



店長に呼び出されたあたしは、その足で閉店後のお店に向かった。



あたしがやって来たのを見て、その場にいたスタッフが驚いたように目を真ん丸く見開いた。



店長に手招きされて、スタッフルームの中へと呼ばれる。



そこで、店長はゆっくりポツポツ話し出した。



どうやらあたしが帰ったすぐ後に、会長が直々にお店に乗り込んで来たらしい。



あたしをクビにしろと。



「ごめんね……私の力不足のせいで、立野さんを守りきれなかった」



店長は悔しそうに唇を噛み締めていた。



そして、涙目になりながらあたしに頭を下げる。



「や、やめて下さいっ!店長のせいじゃないですから」



名目上のクビの理由は、あたしがみゆちゃんをイジメたから……らしい。



彼女はそう言って父親に泣きつき、怒った会長があたしをクビにしろとお店に怒鳴り込んで来た。



そんな事実はないと店長やマネージャーが抗議してくれたみたいだけど、どうにもならなかった。



実に彼女らしいやり方。



会長は今すぐあたしを解雇しろと憤慨し、明日から来なくていいとまではっきり言ったそうだ。



「今まで……ありがとうございました」



そう言って深々と頭を下げ、お店を後にした。


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