かぐや皇子は地球で十五歳。

 ゆかりの部屋は、地味だ。
 日本家屋代表、白い天井と白い壁。薄茶色のフローリングに敷れたベージュのカーペット。小学校一年生の時にイオンかニトリ辺りで買ってもらったのであろう使い込まれた勉強机。ゆかりは折り畳み式の小さなテーブルを広げると、ベッドの上に置かれていたピンク色のクッションを下ろし、俺を奥へと促した。
 勉強机に並べられているのは読み古されたファンタジー小説。出窓に立て掛けられているのは家族写真と目覚まし時計。ベッドの下には…………ジャンプ!?
 え、少年ジャンプ?月刊じゃないよね、週刊だよね最新号だよねこれ。ゆかりちゃん、ジャンプ読んでんの?その顔で麦わらの行く末気になっちゃってんの?

「黒猫ちゃん…湯浅くんに、なついてるね。」
「あ……あぁ、俺の飼い猫。昨日、ここに置いてきた。」

 腰を下ろした途端、ゆかりに抱かれていたイカスミが俺の膝に飛び付いた。昨日死者を還した後イカスミがベッドから動かないから、ゆかりの傍に居たいのだろうと放っておいたんだ。まさか一晩中居着いていたとは思わなかったけど。
 
「やっぱり……夢じゃなかったんだ。」
「怖がらせてしまったことは、謝るよ。ちゃんと全部話すから。」

 だがどこからどう話せばいいのだろう、会話の入口を探し喉が詰まる静寂の中、時計の秒針だけが音を鳴らせる。先に口を開いたのはゆかりだった。
 
「昨日の夜、なんで私の部屋にいたの。」
「死者からゆかりを守る為に。」
「死者…?」
「黒い道着を着ていた男、ゆかりも見ただろ?襲われそうになっていたから、闇に還したんだよ。」
「闇…?」
「死者の箱庭。斬り殺せば闇に還る。」
「殺せば?湯浅くん、人を殺したの…?」
「殺らなきゃ、殺られてた。それに死者は死んだ人間の魂から造られる闇の造物。人とは違う、殺せば何も残らない。現に血も遺体も消えてる。」

 俺達種族は闇と死者から逃れられない運命なんだ。ゆかりと俺は永遠死者と闘い続けなければならない。
 死者の出現条件は日没から日昇まで、つまりは夜中。一夜に一躰、暗闇に紛れて現れる。頻度は通常2週間に一度程度の筈だが、俺が覚醒してからはどういうわけか毎日続いている。
 死者は一般人は狙わない。標的はいつもゆかりと俺。俺は死者からゆかりを守る為に、転校してきたんだよ。

「ぶっ……あははっ……あはははははっ!」
「え!」
「しゅごいっ……!中二病重症…!」
「ちゅ…中二病?」
< 11 / 58 >

この作品をシェア

pagetop