かぐや皇子は地球で十五歳。
 一頻りお腹を抱えて笑うと、息継ぎの後にまた俺へ厳しい瞳を向けた。
「どうやって入ってきたの?鍵閉まってるし、ここ二階だよ?」
「闇移動……俺、夜なら瞬間移動ができるんだ。」
「……ふはっ…しゅ、しゅんかんいど~!孫悟空か!」
「間違いではないけど……」
 床をバンバン叩きながら悶絶している。
「ゆかり、真面目に聞いて。死者が覚醒前のゆかりを襲うなんて、イレギュラーすぎる。まず目印に蘭昌石がないとみつけられない筈だ。」
「石……?もしかして、この水晶?」

 ゆかりがカーディガンのポケットから勾玉型の蒼い石を取り出した。小さな手のひらから拾い上げると皮膚に吸い寄せられるように磁力が奪われていく。これほどまでに純度の高い蘭昌石を見たことがない。特殊な武器錬成を可能に出来そうなほどに…───────

「これは……この石は何処で?」
「昨日、慶子にもらったの。友達の印し…!」
 ゆかりは自信満々に、また誇らしげににっこりと微笑んだ。だが俺の背中には寒気が走り、蘭昌石を握る手に汗が浮き出ている。栗林慶子だと…?偶然にしちゃ出来すぎてる。まるで死者にゆかりを襲わせようと石を渡したみたいじゃないか。

「この石が……どうかした?」

 その石が死者を呼び寄せたんだよ。と口を滑らせる前に唾を飲み込んだ。俺を見上げるゆかりの顔は相変わらず笑みで緩み、その一方で瞳は軽蔑の色をのせている。どうやら先程の大爆笑といい、ゆかりは俺の話を全く信じていない。つまりは信じられるほど正確に血塗れの現場を見ていないということだ。恐らくは「中二病の転校生が夜這いしにきた!」程度の見解だろう。
 どうする、俺。このまま夜を待って剣を錬成してみせるか?闇移動で消えてみる?だが今日も死者が現れる可能性は高いから力を粗末に使えない。
 それに……ゆかりは栗林を「慶子」と呼んだ。昨日夜遅くまでボランティアに参加したというのであれば、友達と呼べるまでに二人の仲が急速に深まったと考えていい。「その石は罠だよ。栗林が死者にゆかりを襲わせたんだ。」なんて喋ろうものなら、「中二病の舞台で友達を悪者にしないで!」と言い返され、嫌われるのは目に見えてる。
 友人となった栗林と中二病の転校生。こちらが圧倒的に不利だ。それこそ中二病を装ったまま傍に居続けて、栗林を監視するべきかもしれない。今ならまだ軽蔑程度でごまかせる。

「いや…何でもない、栗林にもらったのか、良かったね。」
「うん!それで?湯浅くんはどうやって部屋に入ったの!不法侵入だよ!このままじゃ毎晩怖くて眠れないよ!」
 だから闇というどこでもドアが……
「い、イカスミがさぁ、家出しちゃって、町中探し回ってたらこの家入っていくのみつけて…」
「イカスミ?まさか黒猫ちゃんの名前?何そのふざけた名前!」
「黒くてヒョロイから……じゃなくて、それでだな」
「お母さんがいってた!この猫最近よく家に来るって。そうか、猫を言い訳に私の家へ忍び込んだのね!……そういえば夜9時くらいなら勝手口の鍵、まだ空いてたかも!」
「は、はぁ……」
「湯浅くん。私ね、林間学校と修学旅行で夜這いには慣れてるの。その際の防御策は知り尽くしてる。中二病は病気だ。その可哀想な病気に免じて今回は許してあげる。でも二度はないからね、次不法侵入したら、使い物にならなくしてやるから!」

 ゆかりは仁王立ちで俺を見下ろし、人差し指を俺の股間に指差した。凄い、許してくれるんだね。だてに夜這いされてないね。

「わ、わかったよ……わかったから、その、前閉じて。」
「え。」

 勢いよく指差した弾みでワンピースの胸元リボンがしゅるり、とほどけました。美少女の乳目前に股間を指差されたら俺のナニがアレになっちゃいます。

「きゃ──────────────────!!」
『パン!』
「っだ──────────!」


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