かぐや皇子は地球で十五歳。
 死者が出現した翌日の朝は生憎の雨。客足が少なく暇をもて余した私は着替えの洋服を追加する為、急遽午前中に雅宗さんと二人自宅へと戻った。
 10日ぶりの我が家はいやに片付いている。新聞紙とチラシで埋もれていたテーブルがピカピカに磨かれ、ダイニングから山積みされた煎餅とチョコが消えていた。
 こりゃ、間違いない。

「柏木さ~ん、いらっしゃ~い♪」

 お母様、外行きモード発動してるぅ!なにその白いブラウス、初めて見るけど。まさか今日のために新調?珍しくハーフアップなんかしてうなじ強調しちゃってるよ、この人。いい歳して人の旦那に色目つかってんじゃないよ!

「あれ…?」
 
 カウンターキッチンに三人分のコーヒーカップと共に目新しい携帯電話と説明書が並べられている。

「ああそれ?ゆかりが欲しがらないから持たせてなかったけどさ、さすがにもう中学生なんだし、友達できたんでしょ?晃くんもいるし~?防犯も兼ねて持ってなさいよ。」
「う、嬉しい~~~!!お母さん、ありがとう……!」
「ネトゲにハマッたら即解約!通話時間も基本料金以内におさめること!後、ゴールデンウィーク中は毎晩電話してぇ~、お母さん寂しいのぉ~!」
「わ…わかったよ。必死すぎて怖い!」
「それじゃあ、早く荷物詰めてきなさい!お母さん、柏木さんにお話があ、る、か、ら。」
「は…は~い。」

 雅宗さんを襲わないか、それだけが心配。それにしてもやはり娘がいないのはあの親にしても寂しいようだ。さらに携帯電話が手に入るなんて夢のよう。ほっこりと温まった胸を弾ませ階段を上がり旅行バッグに着替えを詰め込むと、リビングには戻らず一階突き当たりの和室へと真っ直ぐに向かった。

(お父さんに挨拶していこう。)

 ついでにお母さんの浮気心も報告しておこう、うん。
 小さな仏壇には若い父の写真一枚と好物のりんごがひとつ置かれていた。どんなに部屋は汚しても、この仏壇だけはいつも綺麗に磨かれている。

(お父さん…、お母さんとゆかりを守ってね。)

 父、眞鍋徹は私が小学一年生の時に事故で亡くなっている。記憶は朧気だけれど、いつも優しい父はゆかりを甘やかしすぎる、と母に怒られていたことはよく覚えていた。そうそう、内緒で夜更かししてはみつかって、二人並んで廊下に立たされたっけ。
 お父さん、イケメンに弱いお母さんを許してください。と手を合わせていると心を読んで現れたかのように母が横に並んだ。
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