かぐや皇子は地球で十五歳。
 正直、楽しかった。

 坂城ってなんであんな息継ぎも無しに喋れるんだろう、肺活量どうなってんの?栗林にツッコまれすぎて腹の傷より肩が痛むんだけど。
 久し振りに喋って声は枯れるし笑いすぎて喉が痛いが、病室に籠りきりだった俺には思わぬストレス発散となった。
 やっぱり俺は中学生で、中学生なりの楽しみ方が楽しいんだ。思い知らされた。そんな感じ。
 だがこのベッドサイドに置かれたアロマディフューザーはどうにかならないものかな。チェリーブロッサムの香りが俺の部屋には少々甘ったるい。

(ゆかりの、匂い。)

──────────コン、コン。

「湯浅くん……?寝ちゃった?」
 気遣う、遠慮がちな声。
「ん……、まだ、起きてるよ。」
「ごめんね、疲れちゃった?」
「うん。腹一杯だし、悪いけど今日はこのまま寝るわ。二人に言っといて。」

「……ふっ…………ぇ…っ…えくっ………わかった。」
「え……?」

 近くで泣き震える声が聞こえ思わず顔を上げる。
 いつの間に入室していたのやら、ゆかりは俺に背を向ける形でベッドに浅く腰を掛け、肩を震わせ泣いていた。

「ど、どうした。」
「ごめん…ごめんね?今気付いたの。明日学校なのに、傷治ってないのに無理させちゃった。笑ってくれたらいいなって、そればっかりで、湯浅くんの身体のこと、全然気遣ってあげられなかった。」
 今更だな、おい。
「い、いや、疲れは寝ればとれるよ。それに今日、凄く楽しかったし、ゆかりには感謝してる。坂城や栗林にも───────」
「ひっく……、本当?」

 本当?で身体を捻らせ、俺に触れる位置まで手をベッドの内側へ移動させた。浅く腰掛けていたから重心が上半身へと集まり、自然と太股がベッドへ乗り上がりミニスカートが捲れ上がる。うつ伏せたまま起き上がった俺とゆかりの目線の高さは同じ位置。スクエアネックのカットソーは胸元の露出が広く、肩にあしらわれた花柄レースからピンク色のストラップが覗いた。
 首筋から香る、さくらんぼの匂い。
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