かぐや皇子は地球で十五歳。
『ゴクン。』

 渇いた喉で息をのみ静寂の中、やけに響く。
 俺の身体を気遣うなら、入院生活で溜まったこの性的欲求不満にも気遣ってください。なんてことを胸で淡々と語りながら、ゆかりの肩をポンッとベッドへ押し倒していた。

「ゆ、湯浅くん……?」
「男の部屋で警戒心なさすぎるって、いつも言ってるだろ。」
 乱れる前髪から覗く形のいい額とか。
「湯浅くんはそういって、いつも何もしないもん。」
 上気してほんのり赤く染まった頬とか。浮き出た鎖骨とか。剥き出しになったピンク色のストラップとか。
「男子中学生が、ベッドで女子と二人、正気でいられると思ってんの?」
 下唇に残った真朱色のグロスとか。
 悪いけど、閉店前のカフェは客入りピークで雅宗の邪魔は入らない。ゆかりだって承知の上だろ。

「あ……、あのね?私、昨日またマドレーヌ焼いたの。可愛いくてビックリするよ?」

 はぐらかしながらスカートのポケットを探るから、また一段と生足がさらけ出された。
 ビックリだ。
 出てきたのは……三センチほどの小さな貝殻マドレーヌ──────の先に見えるブラの花柄レース。

「ね、可愛いでしょ?」

 か───────わい────────い、で──────すよ─────??

「え…っゆ、……湯浅くんっ……ダメッ……ま、待って。」

 無理無理。もう、無理。
 何がなんでも、もう無理。
 待てない、待てない。
 
「駄目だよ……!その場の勢いでだなんて、好きな人に失礼だよ!」
「……へ?」
「湯浅くん、あの看護婦さんのこと、好きなんでしょ?だったら駄目だよ、こんなの!」
「……は、はぁ?」

 掴んでいた手首の力を緩めてしまい、自由になったゆかりの指からデコピンが繰り出された。

『パンッ』 強烈に。

「っだ────────!!」
「もう!このエロ中学生が!」

 さらりとベッドを抜け出したゆかりはスタスタと扉へと向かっていく。急に何か思い立ったのか、足を止め振り返る。

「湯浅くんの恋、応援してるからねっ?」
「え?」
「私、ず───────っと湯浅くんの友達だよ!だから遠慮なく相談してねっ。」
「…………(絶句)。」

───────────パタン。


 え…………。
 ず───────っと友達宣言されたんですけど。
 マドレーヌ焼いて、盛大に退院祝いして、ミニスカートで、下着チラ見せしてとびきりエロい顔で近付いといて!?


「ゆ、ゆかりって…………」


 超ビッチ───────────────────────っ…!!!


< 40 / 58 >

この作品をシェア

pagetop