かぐや皇子は地球で十五歳。

「どした晃、寝不足か?イケメンが台無しだぞ。」
「……ピンク色の……ピンク色のお花が……お花のレースが……」
「どうした!悪魔に呪われたか!」
「いや、正確には魔女だ。」

 ベッドに横たわるゆかりの映像が脳裏に鮮烈に焼き付き、残り香が染み付いたシーツで眠れる筈もなく、疲れに寝不足を挟み込んだサンドイッチを全身に貼り付かせたゴールデンウィーク明けの金曜日。俺はいつもの5割増で机に沈んでいた。
 いつも煩い女子三人組の声もまた5割増で教室に轟く。

「私、栗林が歌舞伎町のホテル街でおっさんと腕組んで歩いてるところ見たんだけど。」
「ゴールデンウィークは稼ぎ時ってこと?」
「援交反対~!」
 もうやめておけ、お前達。
 栗林の反撃に勝った試しがないだろ。
「じゃあ、あんたは歌舞伎町のホテル街で何してたの?え?あれか、迷い込んだフリして一人悶々としてたのか?さすが処女!」
「へ、へぇ!援交認めるんだ!」
 休み明けだからか?今日は両者退かないぞ。
「父親の仕事の手伝いだ、単細胞。援交しか頭にないの?そんなにたまってるなら校庭で股広げてれば?野良犬が相手してくれるんじゃない!」

『ヒィ!』

 凄い、獣姦で締めたか。齢14歳の台詞とは思えないぞ。
 つーか、父親の仕事の手伝いって何!たまってるからエッチなお仕事しか思い付かないんですけど!

「なぁ、坂城!歌舞伎町の女王か!」
「何言ってんのお前。次の体育、見学だろ?日差しが強いから日陰で座ってるんだぞ。」
「坂城が優しい……気持ち悪い……」
「俺は怪我人には優しいのだ。スゴロクに6の目が出て気分いいし。」
「何のスゴロク!」
「青春?ゴールが見えてます!」
「早くね?お前の青い春早くね!?」

 坂城のゴキゲンを訝しく思いながらも、校庭の隅で体育座りを決め込んだ。新しい制服が馴染まず非常に居心地が悪い。だが群青ズボンに赤いネクタイの配色は成る程、美少年の白肌を怖いくらい引き立ててしまってる。お姉様方が高等部校舎から俺を見下ろしているというのに、俺の視線は一点に集中していた。
 ゆかりは、妄想世界に肩まで浸かりながら「おはよう」と語りかけてくるタイプだ。白馬に乗った王子様が迎えに来てくれると思い込んでいる。いや、もっと言えば火影になりたい主人公に求愛されてるけど、私はダークサイドなサ○ケくんが好き的な同級生役を望んでいるイタい女子だ。
 世界で二人しかいない忌み子の片割れと言われ、ヒロインモードが発動しない訳がない。しかもヒーロー役の俺は美少年、一瞬で恋に落ちてしまう。だから俺はご丁寧に「ヒーローごっこはごめんだ。」と態度で示したんだ。これは人一倍、人間観察力に長けたゆかりには効果覿面だったと言える。ゆかりは俺に虐げられヒーローを恋愛対象から除外した。
 その穴を埋めるようにやってきたのが……坂城!?冗談よせよ、坂城はないだろ!あれか、私はうずまいてるナ○トくんが好き的な発想か!?あいつは火影の素質ゼロですよ?只のお馬鹿なキッズですよー?あんなふざけた野郎にあの尻奪われるなんて悪夢だ。つーか、帰宅部なのになんであんないい尻してんの!ブラジリアか!もうさっきから目が離せないんですけど!

「ゆかりのブルマに焦点合わせ過ぎだ!この、エロシストがぁあ─────!!」
「ぐはぁ…っ!」

 か……、肩に踵落とし!?
 この所業は間違いない、栗林様ですね!?僕、お腹切ってるんですけど、20針縫ってるんですけど!エロシストって何!エクソシストみたいに言わないで!
 不可抗力だろ、あんな桃尻突き出されて……サッカーのディフェンスなんて…………自分のゴール守るので精一杯に………何言ってんの俺?……何……だ………─────────

「湯浅くん!?……湯浅くん!!」

 やべ、ヤっちゃったかも。という栗林の呟きを最後に、俺の意識は青天へと飛んでいったのでした。
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