溢れる蜜に溶けて
「ひゃっ、147円になりま――」
「お前バイト9時に終わるの?」
「へ…っ??」
咄嗟に瞳を外して遙くんから逃げれば、追い打ちをかけるように予想外の展開が落ちてくる。
反射的に飛び出した言葉。揺れる視界の奥。握った拳の中で皮膚に爪が食い込んだ軽い痛み。
喉がじんわり温もりを覚えたのとは反対に、頬が熱を膨らませた。
「バイト9時に終わるのかって聞いてんだろ」
「~~っ!9時に終わり、ます」
財布の中から小銭を取り出す遙くんが意地悪な口調で一方的に唇を開く。
一つ間を置いて、短く、小さく、掠れた声で返事を返すと遙くんはペットボトルのジュースを、さっと手にし何もなかったように背中を向けて。
震える声で精一杯に答えた私がまるでバカのように思えました。