溢れる蜜に溶けて

結んだポニーテールを揺らし思い切り顔を背けた。


知らないフリ、他人のフリをしてどうか遙くんがレジに来ませんようにと周りに目を向けて何度も祈る。



うう。

遙くんがレジに来たら…い、嫌です。とにかく意地悪なことを言われても気にしないようにしましょう。



「おい」

「!」



言ったそばから、頭上めがけて降ってきた声に指が反応した。


吸う息が苦しくて鼻を通ってもすぐに外へ出てしまう。


何も言わない私の態度に嫌気をさしたのか、レジの前で不愛想に立つ遙くんは無言でペットボトルのジュースを差し出す。


遙くんを囲んだ冷たい空気が肌に痛いほど当たり、声をかけられた時、少しでも言葉を返してたらよかったです、と後悔の連続ばかりが私を悩ませた。


焦らすような手つきでペットボトルを取り、俯いた視線を上げる。


ムスッと口許を尖らせる遙くんの視線が横にふい、と寄り交差した。
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