溢れる蜜に溶けて

じっ…と数秒重なる視線。暑さも喉の渇きも忘れて指の感覚さえも失って。


生温い風に運ばれてやってくる遙くんの、男の子の匂いに心臓の高鳴りは止まない。



「…っ」

「あ…。わりぃ」



触れてた両手を離した遙くんが、珍しく謝って唇を軽く噛む。声を出すのを忘れた私は、二、三回首を横にふるふる振った。



~~っ!ど、ドキドキしました。

あの遙くんに――…



ウソかほんとかわからない気持ちの整理。下がらない熱。


頬に指を這わせてみたら遙くんが触れた部分だけ、熱い、です…。


まだ帰らせてくれない遙くんが、何か言いたそうな遙くんが、瞳を左右に動かし、震える唇を開かせる。


その些細な行動に心臓をぎゅっと鷲掴みにされたような、緊張感漂う空気になった。



「透、あのさ…」

「は、い」

「…やっぱなんでもない。つか、古典のワーク36ページさっさと見せろよな。お前とろいんだよ。来週から補習始まるし…だから、夏休み終わるまでに持って来い」



いざ口を開いたと思えば普段と変わらない意地悪な言葉が次から次へと飛び出してくる。


口数の多い遙くんを少し不思議に思いながらも、私は素直に一つ頷いた。
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