溢れる蜜に溶けて
前髪に隠れた視線を上げてみる。
上げてからすぐに下へ戻す。
「いや…さっきのは、忘れてください」
片手で口を覆って小さく動かす唇が指の間から時折見える。
すっかり返事に困った私は、職員室に行くまで朝比奈くんのことが見えなかった。
あれから何分か経過し、ぼーっと半分放心状態で教室まで辿り着くと、10分休みもほぼ終わりを迎えていて。
席についたまま息を吐き机の上で、じっとお留守番をしていた古典のワークを中に閉まった。
"忘れてください"なんて言われても、そんなのムリですよ…。
それに、なんだかこのタイミングで遙くんのことを思い出して…っ!モヤモヤしますっ!
ガバッ!と机に対して前屈みで、顔を伏せてたのを思い切り起こし、頬をぺちぺちと二、三回軽く叩く。
うぐっ。
ここ最近は遙くんのことばっかり考えてておかしいです。