溢れる蜜に溶けて

それから、それから…



「…お前バイトいつからしてんの?」



遙くんは私のことを名前では呼びません。


たまに透って呼ぶ時もありますが基本は、"お前"か"おい"の二つ、です。


他の女の子、私の知らない女の子のことはちゃんと名前で呼ぶのに。


私だけ"お前"です。



「え、と…6月の終わり頃から始めました」

「…」



短く伝えると遙くんは黙って視線だけを寄せる。



「あの、その…っ。夏休みなのでシフトは夕方から夜までで。まだ慣れてないけどバイト、楽しいです」



無言状態に息を詰まらせ、つい余計なことまで滑らせてしまった。


言い終わったあとで、半分開きっぱなしだった唇を閉じる。
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