世界を濡らす、やまない雨
有里は、声をかけようとしていた私の気配に気付いていたと思う。
でも私をちらりとも振り返らずに、二列向こうのデスクの傍で立ち上がった女性の先輩に声をかけた。
「サキ先輩!あたしも今日、ランチご一緒していいですかぁ?」
語尾が間延びした、先輩に媚を売るような声。
「有里?」
驚いた私は後ろから彼女に呼びかける。
それでも有里は、声をかけたサキ先輩のことしか見ていなかった。
「いいけど、幸田さんひとり?」
サキ先輩の視線がちらっと私の方へ向けられる。
有里はサキ先輩の視線に誘導されるように、振り返って私のことを横目で見た。
「ゆ……」
「はい、あたしだけです」
もう一度呼びかけようとした私に背を向けて、有里はサキ先輩にきっぱりとそう言った。