世界を濡らす、やまない雨
「さっき他の人から聞いた噂なんだけど……」
「はい」
その前置きに、やや首をかしげながら相槌を打つ。
「先週の金曜日の夜に、課長の奥さんが会社に乗り込んで来たらしいの。その理由が、課長が同じ課の女子社員と不倫をしている。だから、その女子社員をすぐにでもクビにしてくれって……」
先輩の言葉に、私はひやりとした。
いつかの夜、課長に誘われたときのことを思い出し、背中に冷たいものがつーっと流れる。
息が苦しくなって、唾を飲み込む。
次に何を言われるのかと身体を強張らせていると、先輩は私が思ってもみなかったことを口にした。
「その不倫の相手ね、幸田さんだったらしいの」
え……?
あまりに衝撃が大きくて、「え……?」というその言葉すらきちんと声にならなかった。