世界を濡らす、やまない雨
「やっぱり、いくら仲がよかったとしても話さないか。課長、辞令を言い渡されてどこだか知らないけど地方の支店に急遽転勤になったらしいよ。土日の間に荷物整理して……左遷だよね」
先輩は衝撃を受けている私を見て何度か頷くと、そう言って課長のデスクにすっと冷たい視線をやった。
「課長、結構部下からの人望厚かったし、びっくりだよね。私、アドバイスをもらいながら企画を進めてた取引先があったから……急にいなくなられて、どうしようって感じだよ」
ため息混じりでうんざりしたように話す先輩の言葉を聞きながら、私は社内に有里の姿を探した。
出社した瞬間、社内がざわついていたのはそのためだったのだ。
本当なのかどうかはっきりわからない噂に溢れた社内で、有里はどうしているのだろう。
懸命に視線を動かしたが、有里の姿はどこにも見えなかった。
「あの……それで、有里は?」
遠慮がちに尋ねると、先輩は「あぁ」と言って眉をしかめた。
「デスクに鞄あるから、来てるんじゃない?人事に呼ばれてるって誰かが言ってたけど」
そう言った先輩の声は冷たかった。
有里とは仕事の頼みごと以外でもよく話している先輩だったのに……
先輩のその物言いで、彼女が左遷された課長ではなく有里の方を軽蔑していることがわかった。