世界を濡らす、やまない雨


「道木さんの同級生が亡くなってしまったのも、同僚が職場を追いやられてしまったのも悲しいことだったよね。だけど俺はそれは道木さんだけのせいじゃないと思う」


昨夜私の話を聞いた角谷は、何も言わなかった。

けれど、私の話を受け止めて彼なりにきちんと考えてくれていたのだ。


私の髪を梳きながら、優しい声で彼が続ける。


「だけど、道木さんは彼女達のことを忘れちゃいけないとも思う。道木さんが背負えない分は俺も手伝うから、だから一人で何でも抱え込まないで」


角谷を穴が開くほどじっと見つめていると、彼がちょっとだけ照れくさそうに笑って私から視線を逸らした。


「ごめんね。こんなことしか言えなくて……」


私は角谷の腕の中でゆるゆると首を振る。

私の中で、何かが変わったわけでも解決したわけでもない。

けれど、角谷の言葉は柔らかな風となって確かに私の心を吹きぬけた。


< 228 / 237 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop