世界を濡らす、やまない雨
「道木さんの同級生が亡くなってしまったのも、同僚が職場を追いやられてしまったのも悲しいことだったよね。だけど俺はそれは道木さんだけのせいじゃないと思う」
昨夜私の話を聞いた角谷は、何も言わなかった。
けれど、私の話を受け止めて彼なりにきちんと考えてくれていたのだ。
私の髪を梳きながら、優しい声で彼が続ける。
「だけど、道木さんは彼女達のことを忘れちゃいけないとも思う。道木さんが背負えない分は俺も手伝うから、だから一人で何でも抱え込まないで」
角谷を穴が開くほどじっと見つめていると、彼がちょっとだけ照れくさそうに笑って私から視線を逸らした。
「ごめんね。こんなことしか言えなくて……」
私は角谷の腕の中でゆるゆると首を振る。
私の中で、何かが変わったわけでも解決したわけでもない。
けれど、角谷の言葉は柔らかな風となって確かに私の心を吹きぬけた。