世界を濡らす、やまない雨
課長は穏やかな口元とは裏腹に冷たい瞳で私を見下ろしながら低い声で言った。
「じゃぁ、仕事の話はまた今度にしよう」
「え、仕事…」
聞き返そうと口を開くと、後部座席のドアを開けて待っていたタクシーの運転手が短くクラクションを鳴らした。
「お客さん。乗るの、乗らないの」
運転手が振り返りながらやや苛立った声を出す。
「あぁ、乗りますよ」
課長は落ち着いた声で運転手に返事をすると、タクシーの中に身体を滑り込ませた。
「じゃぁね、道木さん」
課長が低い声でそう言うと同時に、タクシーのドアが閉る。
うっすらと笑みを浮かべた課長のその表情に、私はなんだかぞっとした。