Octave~届かない恋、重なる想い~
議員の妻

妻としての自覚


 私は泣き虫だ。

 小さい頃は本当に泣いてばかりで、娘に甘い父が心配していたと聞いた。

 雅人さんが我が家から遠ざかってしまった時、こっそり泣いていたのを、父に見つけられてしまったことがある。

「どうした?」と問われて、私は咄嗟に「友達と離れ離れになるのが辛い」と言った。

 大学へ進学する時期で、色々な人と別れる時期でもあったから。

 だけど、父は何かを察知していたのかも知れない。

「結子がその人にとって、かけがえのない大事な人間だったとしたら、また必ず会えるよ」と言って、頭を撫でてくれた。


 その父が倒れた時も、病院から戻って自分の部屋で一晩中泣いた。

 泣いても何も解決しない、そんなことは自分が一番よくわかっている。でも、止まらない。

 こんな自分が嫌で変わりたいと願ったけれど、やっぱり無理で。

 雅人さんから結婚初夜に突き放された時も、ベッドでずっと泣いていた。


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